私の考えとして、介護離職は絶対に避けるべきと考えています。
しかし、仕事がどうしてもあわない。
心身に影響が出ている。
そのような方は退職したほうがよいと考えています。
でも
「仕事は辞めたいけど次がないし」
「仕事を辞めたら生活ができなくなる」
「この年齢で退職したらもうどこも雇ってくれないのではないか」
と思う気持ち、本当によくわかります。
だって、私がそうでしたから。
私は以前の職場が大好きでしたし、今でも戻れたらなと思うことがあります。
しかし当時はうつの症状がとても強く出ていて、
「全部自分が悪い」
「自分がいなくなった方が会社にとって良い」
という考えが止まらず、退職を考える日々が続きました。
心のバランスが崩れてしまうと、このような偏った考え方になってしまいます。
本来ならこの時点で一度お休みを取るべきなのですが
「仕事を辞めたら生活ができなくなる」
「もう雇ってくれるところはない」
という思いで埋め尽くされていました。
結局、主治医から休職診断書が出たことをきっかけに退職に至ったわけですが、その後は心配していたほど生活が苦しくなることはありませんでした。
なぜなら社会保険と雇用保険に入っていたからです。
職場で入れる3つの保険
仕事に就いて一定の条件を満たすと、次の3つの保険に加入することになります。
労災保険 | 雇用保険 | 社会保険 |
正社員、パートタイマー、アルバイト、外国人など、労働する全ての人 保険料は事業者負担 | 31日以上の雇用が見込まれ、週の所定労働時間が20時間以上の人 保険料は労使折半 | 2か月以上の雇用が見込まれ、以下の条件を満たす人 ・週の所定労働時間が20時間以上(従業員数によっては30時間以上)※令和10年10月1日~は10時間以上に拡大 ・賃金月額が88,000円以上 ・学生ではない 保険料は労使折半 |
これらの保険は希望して加入するのではなく、条件を満たしたら加入しなければならない保険です。
このうち、退職に大きく関わってくるのが、雇用保険と社会保険です。
社会保険で補償が受けられる傷病手当金については以前の記事で取り上げましたので、そちらの方で確認してみてくださいね。
本日は雇用保険についてお話ししましょう。
雇用保険で受けられる給付
「退職=失業保険」
というイメージの方も多いと思いますが、雇用保険で受けられる失業給付はこんなにもたくさんあるんです!
今日はその中でも退職時に利用したい給付を赤で囲ってみました。
一般的にイメージされている失業保険は、一番上にある「基本手当」です。
基本手当を受ける条件
基本手当の給付を受けるためには、次の条件を満たしていなければなりません。
- 雇用保険の被保険者で離職した者
- 労働の意思及び能力があること
- 離職の日以前の2年間に、被保険者期間(11日以上勤務した月または労働時間数が80時間以上の月)が通算して12か月以上あること
- 解雇、倒産等による離職(特定受給資格者)の場合は、離職の日以前の1年間に被保険者期間が通算して6か月以上あること
このような条件を満たしている場合、退職後に離職票をハローワークに持参して求職の申し込みをします。
離職票は退職した職場からおよそ2週間ほどで受け取ることができますが、顧問先の社労士事務所やハローワークが繁忙期の場合は手続きに時間がかかる場合もあります。
そのような場合は後から離職票を提出することも可能ですので、まずは退職したらできるだけ早くハローワークへ求職の申し込みに行きましょう。
しかし、私のように病気で退職してしまった場合は、受給条件の一つである「労働の能力」が満たせませんし、ハローワークへ行くことも難しいですよね。
通常、受給期間は1年間ですが、もし病気などの理由で1か月以上就職活動ができない場合は、受給期間を最大4年間延長することができます。
ですから病気で退職してしまった場合は、まずは社会保険による傷病手当金の申請を行って生活を維持し、退職から30日を過ぎたらできるだけ早く受給延長の手続きを行いましょう。
手続きには、離職票と受給延長申請書、働けないことを証明できるもの(医師の診断書など)が必要です。
申請は郵送でも可能ですよ。
そして働ける状態になったら、改めてハローワークに出向いて求職の申し込みをしましょう。
ハローワークで求職の申し込みをすると、まずは失業保険についての説明を受ける日を伝えられます。
この説明会には必ず出席する必要があり、その日から4週間ごとに1回ハローワークに出向いて失業認定を受けることで基本手当が支給されます。
失業認定というのは、この4週間の間に求職活動を2回以上行っているかどうか、労働をして賃金を受け取っていないかどうかを確認されます。
ハローワークで就職相談をすることも1回と数えられますから、失業認定日にハローワークに行ったついでに仕事の紹介を受け、面接を1回受ければ条件を満たせます。
面接でなくても、就職活動に有利となる資格取得のための試験を受けることなども認められますよ。
基本手当の給付日数
さて、失業給付を受ける条件が揃ったら、あとは入金をされるのを待つだけなのですが、この受け取れる時期や期間が人によって変わります。
まず、全員に共通するのが、待期期間です。
求職の申し込みをした日から7日間は失業保険の給付を受けることができません。
【自己都合退職・定年退職の場合】
被保険者期間 | 10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
全年齢 | 90日 | 120日 | 150日 |
自己都合退職の方は2か月間(※令和7年4月1日からは1か月に短縮できる)、懲戒解雇で退職された方等は3か月間給付が制限されますので注意が必要です。
【障害者等の就職困難者】
被保険者期間 | 1年未満 | 1年以上 |
45歳未満 | 150日 | 300日 |
45歳以上65歳未満 | 150日 | 360日 |
【倒産・会社都合の解雇等による離職(特定受給資格者)】
被保険者期間 | 1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
この「特定受給資格者」というのは、かなり広い範囲にわたっており、今仕事を辞めたいと思っている人のうち、意外と多くの方が当てはまるのではないかと思っています。
倒産や会社都合による解雇による退職はもちろんですが、例えばこんな理由で離職した場合です。
- 退職勧告を受けた(直接的ではなく間接的にでも可)
- 労働契約書に書かれた労働条件が実態と全く違った
- 3か月以上連続して45時間以上もしくはひと月に100時間以上、平均で80時間以上の時間外労働や休日労働があった
- 職種転換の際に必要な配慮がなされなかった
- パワハラがあった
- 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、張力の減退、触覚の減退
- 妊娠、出産、育児等
- 父母の死亡、疾病、負傷等で家庭の事情が急変した
- 配偶者の転勤により通勤不可となった
- 結婚により住所が変わったことで通勤不可となった
など、まだまだたくさんあります。
意外と当てはまることがあるのではないでしょうか?
特にパワハラなどは仕事を辞めたいと思う原因の一つですよね。
パワハラを受けていても退職届には「一身上の都合により」と書いて退職する方が多いと思います。
そのような場合、離職票には自己都合退職と書かれますが、ハローワークで申し出ることにより特定受給資格者に変更してもらうことができます。
ただし、離職票の内容と本人の意見に食い違いがある場合は、退職した職場にハローワークから確認を取られることがありますので、何か証明できるような証拠が用意できると良いでしょう。
基本手当の給付額
一番気になるのが、いくら貰えるのかというところですよね。
失業保険の基本手当はひと月当たり、1日当たりの給付額×28日分が支給されます。
ではその1日当たりの給付額(基本手当日額)はどのように決められるのでしょうか?
基本手当日額=賃金日額×賃金日額に応じた率(50~80%)
このような計算式で求められます。
この賃金日額というのは、離職日前6か月間に支払われた賃金総額(賞与は除く)を180で割った金額です。
この金額が高ければかけられる割合は50%の方に近付きますし、低ければ80%の方に近付いていく仕組みになっています。
また、この基本手当日額には下限額と上限額が定められていて、なんと明日、令和6年8月1日から増額されることが決まっています。
最低でもひと月当たり64,260円は受け取れることになりますね。
賃金が高かった方は受け取れる金額が半分ほどになってしまいますが、生活に困ることはないでしょう。
一般的な収入の方はそれまでに貰っていたのとあまり変わらない金額が支給されますので安心して生活できます。
ちなみに失業給付金は非課税所得ですが、ひと月当たりに貰える金額が多い方は扶養に入ることができませんので、国民健康保険に加入しなければなりません。
しかし国民健康保険は高額かつ全額自分で負担しなければならないので、支払うのが大変ですよね。
そこでおすすめしたいのが、健康保険の任意継続です。
退職日までに2か月以上社会保険に加入していて、退職後20日以内に申請することで引き続き最大2年間健康保険に加入することができます。
保険料は全額自己負担ですが、国民健康保険より割安ですので、該当する方は任意継続制度を活用しましょう。
再就職手当や就業促進定着手当をもらおう
ハローワークを通して仕事が決まると、「再就職手当」や「就業促進定着手当」を貰える場合があります。
早期に安定した職業に就職した場合、所定日数が1/3以上残っている場合は残日数分の給付金額の6割、2/3以上残っている場合は7割が支給される
安定した職業というのは、決して正社員でないといけないという訳ではなく、パートタイマーであっても雇用保険に加入できるような勤務状況であれば対象となります。
私は就職活動を始めてから早期に就職先が決まったので、なんと約100万円の給付をうけることができました。
前職よりもお給料はずいぶん下がってしまいましたが、再就職手当がいただけたことで、無理なシフトを組んだりすることなく、体調優先で働くことができました。
また、前職よりもお給料が下がってしまった場合に給付されるのが就業促進定着手当です。
再就職手当の支給を受けた人が、引き続きその就職先に6か月以上雇用され、かつその6か月間に支払われた賃金が前職の賃金に比べて低下している場合支給される
残念ながら私はこの手当を受ける前に病気を理由に退職勧奨を受けてしまったので受給できなかったのですが、前職に比べて減ってしまった賃金を補ってくれるので、これも非常にありがたい制度ですよね。
しかも、みなさんも経験があるのではないかなと思うのですが、新しい職場に入社してしばらくたつと、また辞めたいなと思ってしまう瞬間がありませんか?
なかなか職場になじめなかったり、慣れてきたことによってミスが起こりやすくなってしまいますよね。
でも6か月頑張ればまた手当金が支給されるなら、もうちょっと頑張ってみようという気持ちになれますよね。
そうしているうちに仕事もうまくいくようになってきて、気付いたら仕事のやりがいも感じられるようになっているものです。
ですから、このような制度を上手に活用して新しい環境で活躍していただきたいなと思います。
年齢が高くても病気があっても次の職場はある
さきほど私は早期に再就職をして再就職手当を受給したとお話ししましたが、その就職活動は大変なものでした。
職種にもよりますが、40歳を超えると急に求人数が減ります。
今は売り手市場とは言われていますが、やはり年齢の壁があるのは実感として感じました。
しかも大学を中退している私は、大卒以上という条件の壁も乗り越える必要がありました。
また、私はうつ病であることをオープンにして就職活動をしていましたので、やはり面接の内容は病気について聞かれる時間が長かったです。
せっかく採用しても精神疾患があると続かないのではないかと思われるのは仕方がないと思います。
私は自分の健康を守るために、不採用につながるリスクがあることを分かったうえで病気をオープンにして就職活動をしていましたから、落ちるのは当たり前と考えていました。
ですから私は
- 時給は気にしない
- とにかく面接の数をこなす
- 年齢や学歴の条件に引っかかっても応募してみる
この3点を心に決めて、週に2~3社面接を受けていました。
年齢や学歴が募集要件に挙げられていても、意外と面接していただけるものです。
結局企業が求めるものは、年齢や学歴よりも、いかにその職場と仕事にマッチし、貢献してもらえるかです。
病気があってもきちんとコントロールする努力をしていることを丁寧に伝えれば、理解してもらえる職場は必ず見つかります。
逆に理解のない職場では長く働くことは難しいでしょう。
自分の可能性は無限大だと信じましょう。
実際に社労士事務所で入社手続きをしていても、就職するのに年齢は関係ないことがよく分かりますよ。
まとめ
- 雇用保険の失業給付には様々な制度がある
- 失業給付を受けるためには一定の条件を満たし、月に1度ハローワークで失業認定を受ける必要がある
- 病気などですぐに働けない場合は、受給延長の申請を行うと良い
- 失業給付を受けられる日数や金額は、退職理由や年齢、勤続年数、それまでに貰っていた賃金によって変わる
- 可能であれば健康保険は任意継続の手続きを行っておくと保険料の負担が減る
- 再就職先の賃金にこだわるよりも、早期に再就職することで、再就職手当金や就業促進定着手当を受給することができ、生活の安定につながる
- 年齢や学歴、健康上の壁があっても、自分に合った就職先を見つけることはできる
様々な雇用保険の制度をご紹介しましたが、一番は自分に合った職場と出会うことです。
特に今の職場が合わず無理して仕事を続けている方は、心の健康を損ねることにつながりかねません。
仕事は、心も体も健康でなければ長く続けることは困難です。
それが、どれだけ好きな職場であってもです。
逆に自分に合う職場と出会えれば、体の調子も良くなりますし、仕事のパフォーマンスも上がります。
未知の世界に飛び込むことも、苦労は多いですが自分の価値観を広げてくれます。
「仕事を辞めたら次がない」
それはただの思い込みです。
自分のことを信じてあげてください。
あなたの魅力がまだ知らないどこかで光る日がきっと待っていますよ。